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新潟地方裁判所 平成7年(わ)44号 判決

裁判所書記官

樋口豊

本籍

新潟市女池四二三番地

住居

同市鳥屋野三四三番地

会社役員

乙川博

昭和一七年八月一三日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官藤川浩司出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役二年及び罰金五〇〇〇万円に処する。

被告人において右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。

被告人に対し、この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、新潟市鳥屋野三四三番地において「乙川工務店」の名称で建築、不動産業及び「隆泉コンクリートポンプ」の名称で生コンクリート圧送業を営む者であるが、自己の所得税を免れようと企て、所得金額をことさら過小にするなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成元年分の実際総所得金額が一億五八七九万八三四六円で、分離課税による長期譲渡所得金額が六九四九万九七七六円であるのに、平成二年三月一三日、新潟市営所通二番町六九二番地の五所在の所轄新潟税務署において、同税務署長に対し、平成元年分の総所得金額が一二一四万五〇〇〇円、分離課税による長期譲渡所得金額が五八三三万九八八〇円で、これに対する所得税額が一四四五万五二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額八九四一万九二〇〇円と右申告税額との差額七四九六万四〇〇〇円を免れ

第二  平成二年分の実際総所得金額が二億二四五万九〇八五円で、分離課税による長期譲渡所得金額が七四九万四一八六円で、分離課税による短期譲渡所得金額が一〇八七万五〇〇〇円であるのに、平成三年三月一三日、前記新潟税務署において、同税務署長に対し、平成二年分の総所得金額が二五三九万五〇〇〇円、分離課税による長期譲渡所得金額が九七八万四二〇〇円で、これに対する所得税額が六六八万八四〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額九七八〇万一〇〇〇円と右申告税額との差額九一一一万二六〇〇円を免れ

第三  平成三年分の実際総所得金額が一億五〇九七万二八八三円で、分離課税による長期譲渡所得金額が二二三六万五〇九二円であるのに、平成四年三月一六日、前記新潟税務署において、同税務署長に対し、平成三年分の総所得金額が一二一四万五〇〇〇円で、これに対する所得税額が一一二万一七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額六九八七万四五〇〇円と右申告税額との差額六八七五万二八〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(平成七年二月一九日付(一二丁のもの)、同月二一日付、同月二五日付四通(五三丁のもの、四一丁のもの、一一三丁のもの、九丁のもの))

一  舛田實(同月二三日付三通)、米岡欣二(同年一月二四日付、同月二五日付二通、同年二月一四日付、同月二一日付二通、同月二七日付三通(九六丁のもの、二丁で本文の記載が「一、乙川浩司」で始まるもの、一一丁のもの))、塚本栄子、今井和幸(同月一七日付、(一三丁のもの)、同月二二日付)、乙川アサの検察官に対する各供述調書

一  検察事務官作成の捜査報告書一九通

一  大蔵事務官作成の「期首棚卸高調査書」、「期末棚卸高調査書」、「外注(北陸ガス)調査書」、「地代家賃調査書」、「支払利息調査書」、「旅費交通費調査書」、「広告宣伝費調査書」、「接待交際費調査書」、「福利厚生費調査書」、「燃料費調査書」、「雑費調査書」、「除却損調査書」、「農業収入調査書」、「農業経費調査書」、「分離譲渡収入調査書」、「分離譲渡経費調査書」、と題する各書面

判示第一及び第二の各事実について

一  大蔵事務官作成の「一時所得・分離譲渡(長期)減額分調査書」と題する書面

判示第一の事実について

一  押収してある確定申告書等第一綴(平成七年押第一六号の1)

判示第二事実について

一  大蔵事務官作成の査察官報告書

一  押収してある確定申告書等綴一綴(平成七年押第一六号の2)

判示第三事実について

一  被告人の検察官に対する供述調書(平成七年二月二五日付(三丁のもの))

一  舛田實(同年二月二一日付)の検察官に対する供述調書

一  押収してある確定申告書等綴一綴(平成七年押第一六号の3)

(法令の適用)

被告人の判示第一ないし第三の各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも情状により同条二項を適用した上、所定刑中懲役刑及び罰金刑を選択し、以上は平成七年法律第九一号による改正前の刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第二の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により判示第一ないし第三の各罪の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金五〇〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金二〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判確定の日から四年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、建築・不動産業、生コンクリート圧送業を営む被告人が、自己の所得税を免れようと企て、所得金額を過少に申告することにより、平成元年分から平成三年分の合計五億四六五万余の所得を秘匿し、所得税合計二億三四八二万九四〇〇円を免れたという事案である。

免れた税額は二億三四〇〇万円を越え、実に多額であるうえ、ほ脱率も平成元年分で約八四パーセント、平成二年分で約九三パーセント、平成三年分で約九八パーセントに達しており、これだけみてもその犯情はまことに芳しくない。また、その犯行態様をみると、いわゆる二重帳簿等の作成や伝票操作といった狡猾な策を弄していないものの、まず納める税額を決めたうえでそれに見合う所得額を決めたり、事業所得に例をとれば各年度とも全く同額のぴったり一〇〇〇万円を申告するという一見して不審な金額を申告していたものであって、大胆不遜な面が窺われるとともに、民商による集団申告を隠れ蓑としていた面も認められるのであって、この点からしても被告人の刑事責任は厳しく追及されてしかるべきである。

しかしながら、被告人が本件につき被告人なりの反省の情を示し、今後は税理士による正規の税務申告を行い、二度と同種事犯には及ばない旨を固く誓約していること、被告人が修正申告に応じて一億円を納入し、残金四億円余についても具体的な分割納付計画が立てられて月々一〇〇万円の納付が実行に移されていること、被告人には平成四年に傷害罪により罰金一〇万円に処せられたなどの前科はあるものの、同種前科はないこと、被告人の健康状態など被告人に有利な事情も認められるので、これらの事情を考え併せ今回に限り厳重に訓戒のうえ、懲役刑の執行を猶予することとした。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 清水研一)

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